食品サンプルをLC-MS/MSで分析するとき、マトリクス効果(イオン抑制またはイオン増強)は避けて通れない問題です。同じ濃度の標準溶液を測定しても、食品マトリクスの中では応答が大きく変わることがあります。この問題を無視すると、回収率が実際よりも高く見えたり低く見えたりして、測定結果の信頼性が損なわれます。

マトリクス効果が起きる仕組み

エレクトロスプレーイオン化(ESI)では、スプレー液滴の蒸発過程でイオン化が起きます。食品由来の共存物質(脂質・色素・糖類・タンパク質分解物など)が液滴中に存在すると、ターゲット化合物のイオン化効率が変化します。これがイオン抑制(応答が下がる)またはイオン増強(応答が上がる)として現れます。マトリクスが複雑なほど、この影響は大きくなります。

マトリクス効果の評価方法

マトリクス効果の大きさを評価するには、後添加試験(post-column infusion)またはマトリクスマッチ標準との比較が一般的です。後添加試験では、ブランクマトリクス抽出液に標準物質を添加した溶液と、溶媒に溶かした標準溶液の応答比を比較します。この比が0.8〜1.2の範囲に収まっていれば、マトリクス効果は許容範囲内とみなすことが多いです。

前処理による対策

マトリクス効果を軽減する最も根本的な対策は、前処理によるマトリクスのクリーンアップです。固相抽出(SPE)、QuEChERS法、タンパク質沈殿など、目的化合物と測定マトリクスに応じて選択します。ただし、前処理を強化するほど操作が複雑になり、回収率のばらつきが増えるリスクもあります。前処理の程度と測定精度のバランスを見極めることが重要です。

検量線設計での対処法

前処理でマトリクス効果を完全に除去できない場合は、マトリクスマッチ検量線(ブランクマトリクス抽出液に標準物質を添加した検量線)を使うことで補正できます。また、安定同位体標識内部標準(SIL-IS)を使うと、マトリクス効果の影響を受けた場合でも内部標準と同様の挙動を示すため、補正精度が高まります。コストはかかりますが、精度が求められる分析では有効な選択肢です。

まとめ

マトリクス効果は、食品LC-MS/MS分析の精度管理において最も見落とされやすい問題の一つです。前処理の設計、マトリクスマッチ検量線の使用、安定同位体内部標準の活用を組み合わせることで、信頼性の高い測定結果を得ることができます。

食品分析のメソッド開発やバリデーションについてのご相談は、Lab Core Zoneまでお気軽にどうぞ。現状の分析プロセスを診断するところから始めることができます。